「素直にピンクと言えばいいと思わない?少年。」
「別にどうでもいいよ。それと、少年言うな。」
部活終了後の帰り道。手塚と帰るはずだった彼女だが、予定が変わったとかで今はリョーマと2人で歩いている。
少年、と呼ぶ彼女に少年じゃない、と返すリョーマという構図は今ではすっかりテニス部に定着してしまっていた。リョーマ本人としてはため息をつきたいところである。
「ねぇ、どうして少年なの?他にも呼び方あるでしょ。」
「越前、とか。」
「そうそれ。俺はそれで良い。」
「でも私は少年と呼びたいのよね。」
個人の自由、言論の自由よ少年。
にやりと笑う少女は外見に反して非常に性格が悪い。ひねくれている、というのか。手塚と話しているときもなかなか暴論を吐いているが、リョーマと離しているときも明らかに遊んでいる節がある。
だがその発言も行動も奇妙にサバサバしているから彼女は皆に好かれているのだ。
「それで少年、話を戻すけど。」
「・・・何?」
どうして桃色なんて言うのかしらね?ピンクで事足りるのに。」
わずかに顔をしかめて答えを探したリョーマは、思いついたそれをそのまま口にする。
「昔は外国語なんかなかったからじゃない?ピンクってpinkだし、英語の。」
「残念、ちょっとズレたなぁ。」
まぁそれでも正解ではあるのだけど、と言って少女は天を仰ぐ。
「少年、日本の国花が桜な事は知ってる?」
「知ってる。」
「どうして桜なんだろうね?桜は美しいだけじゃない、儚くて恐いものなのに。」
それと桃色にどうつながりがあるのか、と首を傾げたリョーマに少女は言った。
「分からない?桜が儚いからこそ桃色が出来たんだよ。」
柔らかく、生命の象徴たる桃を、同じピンク色でも希望の色として。
「桜は、儚いから・・・?」
「桜の木の下には死体が埋まってる、とかもあるでしょう?桜は美しかった。でも同時に死の花でもあったと私は思ってるのよ。」
だからこそ、昔の人は桃色という存在を作ったのではないかと。
穿ちすぎであることは十分承知であっても。
「死の花・・・」
「そんな顔しないの。私が言いたいのは、桃色は良い色だってことよ。」
ス、とリョーマの頬に触れて少女は微笑む。
すぐに少女は前を向いてしまったが、リョーマはそれでも帽子を深く被りなおした。
自分の頬が赤くなっていることが分かったので。
「ねぇ少年。」
「少年じゃない。」
「リョーマ。」
驚いて顔を上げると少女は満足そうに笑った。
「やっぱり良い色だね。」
「え?あ・・・」
まだ赤かったのであろう頬を直視されて慌てるリョーマに少女は囁く。
「桃色は、生きている色なんだよ、少年。」
ますます赤くなる頬を必死で隠して、リョーマは心に誓った。
二度と彼女には乗せられまい、と。
<FIN>
桃色