見ていて不安になる程にふわふわとした足下。ほとんど足音を立てない彼女の身のこなしは彼女の周囲で散る桜のように軽い。
毎年、春と秋には彼女は暇さえあれば桜の下で過ごしている。春には花びらを、秋には紅葉した葉を浴びながら何をするでもなく。
「・・・どうして、毎年そうしているんだ?」
「あぁ、手塚だったんだ。誰かと思ってた。」
振り向くことなく、それでも柔らかに笑う少女の瞳は桜から離れない。
隣に並んで、手塚は同じように桜を見上げた。
「・・・散っているな。」
「そうだね。・・・散っちゃうんだよね。」
どことなく寂しげに呟く少女の頭に桜が積もる。それを払ってやりながら手塚はもう一度問いかけた。
「どうして毎年、ここに?」
「ん?約束なんだよ、これは。」
「約束?」
ようやく桜から目を外して少女は淡く微笑む。
「今年でこの桜切られちゃうでしょ?私達が入学したときから決まってたことだけど。」
新しいキャンパスを作るからと、ここら辺一帯の樹木が伐採されることは今から3年前に決定していた。だから、今年で最後なのだ。
少女は太い幹に手を当てて哀しげに呟く。
「最後まで見てると約束したのよ、私は。」
「・・・桜とか?」
何気なく言った言葉に少女はこくりと頷く。手塚は苦笑混じりにその頭をなでた。
「伐採は3日後からだったか。」
「うん。」
ひらひらと降り続ける桜を手で受け止めて少女は口を開く。
「手塚。」
「何だ?」
「明後日の夜、空いてる?」
「空いていたと思うが。」
首を傾げる手塚を見やって少女は笑う。
「可愛い女の子とデートしない?桜の木の下で。」
「・・・分かった。」
軽く肩をすくめて了承する手塚。少女は手に持つ桜を地上に落としてくるりと向きを変える。
「戻ろうか。次に来るのは明日だね。」
「明日?」
「皆で花見するんでしょ?タカさんが張り切ってたじゃない。」
また不二はわさび寿司なんだろうな・・・と呟く少女の頭をぽふぽふと叩いて手塚は優しく言った。
「・・・盛り上がると良いな。」
「あのメンバーだったら静かにしてたくても盛り上がるわよ。」
明るく言い返して少女は駆け出す。
軽やかに、風のように。
「手塚、早く来ないと置いてくよ?」
頷いて歩調を速めながら手塚は穏やかに笑ったのだった。
<FIN>
ひらりひらり