唯我独尊とは彼のこと
ごくごく普通でごくごく単純な日常。
それが瓦解したのは、私が生徒会長になった次の日のことだった。
各委員会の委員長との顔合わせ。半ば予想していたことだったが、そこにはやはりあの男は来なかった。
学校最強にして最恐、風紀委員長雲雀恭弥。先代も彼には頭が上がらなかったと聞く。
そんなことはどうでもいい。
「…では、これで解散とします。一年間どうぞよろしく。」
淡々と顔合わせを終わらせると、私はその足で応接室に向かった。向かう途中で何人もの人に(中には教師にまで)止められたが、全て無視して進む。
生徒会長になったのは確かに自分の意志ではなかった。教師に拝み倒され泣きつかれ、仕方なくなったというのが実際の所。
だが、だからといってあの男の欠席の理由が「そんなやる気のない集まりに出るなんて面倒くさい」とは、失礼にも程がある。
目を付けられたら並盛では暮らせないとか、女でも容赦なく殺すとか、物騒な噂は何かと耳に入るし、今までの学校生活でも何度も目の当たりにしてきた。
しかし、腹が立つものは立つのだ。
「我、是レ性分ナリ。」
おどけるように呟くと、応接室の扉を軽くノックする。
しばしの間の後、
「…誰?」
若干不機嫌そうな低い声が応じた。
「生徒会長のです。挨拶に伺いました。」
「ふぅん…まぁいいや、入りなよ。」
「失礼します。」
特に躊躇うこともなく扉を開けると、雲雀恭弥はデスクの向こう側で軽く眉を上げた。その意外だな、と言いたげな目に、私は更に不愉快になる。
何が気に入らないとかじゃなく、何かもう…
生理的に受け付けない(キッパリ)
「…何故、先ほどの集まりには来られなかったのですか?」
「伝言、伝えなかったっけ?面倒だったから。」
「面倒でも何でも、出て頂かないと困ります。」
段々冷たくなっていく声音に、雲雀はいっそ愉快そうに笑った。
「何で?だって君、やる気なんかないだろう?どうしてそれに僕が付き合わなくちゃいけないの?」
「やる気がないからこそです。」
言い切ると、雲雀は「ん?」と首を傾げた。
あぁ、どうしようもなく腹が立つ。
努めて口調を平静に留めながら、私は静かに続ける。
「やる気がないから、仕事も分からないし何も出来ません。会長として最低限の仕事はするつもりですが、他の委員会や部活の尻拭いをするような真似は出来ないし、する気もないんです。だから、そういう時にあなたのような学校を牛耳っている存在がいないと困ります。」
私はあくまでも、あなたに従う気はないのですから。体の良い奴隷として使われるのはごめんです。
雲雀は一通り私の言葉を聞くと、不意に肩を震わせて笑い始めた。そんな仕草にもひどく神経を逆撫でされる。
そう、最初から気に食わないのだ。
その、自分の方が上位にいると言っているような(実際そう思っているに違いない)上から目線が。
無言で雲雀を眺めていると、雲雀はひとしきり笑った後で獰猛な目を私に向けた。
獲物を狩る肉食獣の目だ。
「君、そこまで言うってことは覚悟は出来てるんだよね?」
「覚悟ですか?」
「うん…僕に、咬み殺される覚悟。」
言い終わると同時に、デスクを乗り超えて雲雀はトンファーを振るった。風を斬る音が私の耳朶を打つ。
私は、上体を軽く反らせるだけでそれを回避した。
「わぉ、やるじゃない。」
「いえ、残念ながら私は戦う技術は持っていませんので、」
ニ撃目は避けられませんよ。と続けようとしたが、問答無用で襲いかかってくるトンファーに遮られて仕方なく後ろに飛びすさる。
「…人の話を聞いてください。」
「君、面白いね。」
「だから聞けって言ってるでしょうが。」
ただ後ろに逃げるだけでは避けるのが不可能になってきたので、仕方なく全身を雲雀の動きに集中させる。
上から襲ってきた片方を横に飛んで回避すると、テーブルに乗っていた灰皿を蹴り飛ばしてもう片方を弾く。同時にソファーの背に右手をかけて勢いよくそれを引き倒すと、一瞬動きが鈍った雲雀の横を駆け抜けてドアを蹴り開けた。
「失礼しました。」
ぺこり。頭を下げて後は全力疾走。
一度だけ振り向くと、雲雀は荒れた応接室の中で唖然としていた。
さて、その日の夜。
「…ストーカーですかあなたは。」
「調べればすぐに分かることだよ。」
ニッコリと笑っていやに機嫌良さそうに玄関先に立った雲雀は、私の腕を掴んで言った。
「、僕のものになりなよ。」
「…っ…、ふざけるなっ!」
唯我独尊とは彼のこと
(あなた私に興味ないんじゃなかったんですか!?)(気が変わった。ねぇ、返事は?)
〈FIN〉