ささやかな成長
幸村の槍さばきに対抗できる者は武田には少ない。
彼の主である武田信玄・直属の部下である猿飛佐助・そして、もう一人。
女人の身でありながら軍に所属するという女性だ。
「殿、お手合わせ願えますか?」
「あぁ、喜んで。」
抑えめの低い声。幸村よりは低いが長身な体と人形のように整った顔を持つ彼女の武器もまた槍であった。一本の槍で敵をなぎ倒すその姿は“舞姫”と呼ばれるほどに華麗なのである。
各々の武器を片手に城内を歩く2人は、互いに恋愛感情など持ってはいなかった。端から見ていたら年頃かつ似合いの2人であるだけに、城内の人間は妙に燃えている。
何とかして2人に恋心を育てさせようと。
今のところ、その目論見はほとんど成功していないのだが。
「・・・時に、幸村殿。」
「何でござるか?」
「どうしてまたいきなり手合わせなど?今日は非番でしょうに、体を休められなくてよろしいのか?」
その問いに幸村は笑ってこう答えた。
「殿に会えるなら、非番など返上致しまする。」
たまたまそれを聞いた兵の一人が内心で勝利の雄叫びを上げた。
武田軍エース・真田幸村。自分の心の変化にはとことんうとい男であった。
<FIN>
ささやかな成長