「なー、とヨザックって、いつから付き合ってるの?」
「え?私達は…えーと…あ!そうだ、親睦会の日からだよ。私がコンラッドにお酒飲まされちゃった日。」
有利ととコンラッドの3人でテーブルを囲んでいた昼下がり。興味津々な有利の質問に、は照れながらも2人の始まりを語り始めた。
宴会といえば、
「酒、ていうのは分かるんですけどねぇ、姫さん…」
呆れ顔のヨザックに、は痛む頭を抱えて精一杯の抗議をした。
「飲みたくて飲んだんじゃないのー…飲ませられたのコンラッドにー…」
「あーはいはい。分かりましたから、取り敢えず部屋に戻りましょ?いいですね?」
うん、と力無く頷いて、は深く溜め息を吐いたのだった。
第27代魔王渋谷有利陛下主催親睦会。名前だけ見れば実に立派なのだが、内容は要するにただの宴会だった。
今現在18歳、一応まだ未成年だったは、有利と同じくジュースを飲んでいた筈だったのだが…何故か途中で酒を混入されていたのだ。何故かというか、十中八九原因はコンラッドなのだが。
何せ彼が薦めてきた飲み物を飲んだ瞬間、頭が痛くなったので。
「…絶対確信犯だ…」
「隊長のことですか?」
「うん…お酒、飲まないって言ったのにー…」
たまたま近くにいたヨザックが、顔色の変わったから飲み物を取り上げて中身を飲んだところかなり純度の高い酒だった。これを確信犯と呼ばずして何と呼ぶ。
結局1人では帰れそうになかったを送る為にヨザックまで中座させることになってしまって、落ち込んでいるなのだった。
「ごめんね、巻き込んじゃって…」
謝るに、ヨザックはむしろ驚いた顔で首を振った。
「何言ってるんですか!こんなフラフラの姫さんを放っとける訳ないでしょう。気にしなくて良いですよ。」
「…でも、ヨザックあんまり食べてなかったみたいだし…」
「俺は元々あーいう場所は苦手なんです。何せ天井裏が似合うお庭番のグリ江ちゃんですものー?」
おどけて見せるヨザックに、ようやくは笑って彼の顔を見上げた。が、目を見開いて固まる。
「え…?」
見たことが無いほどに温かな顔でヨザックが見下ろしていた。
「…?どうかしましたか、姫さん?」
首を傾げるヨザックに慌てて「何でもない」と否定して、は顔を伏せる。
何だか頬が熱かった。脳裏から彼の表情が消えない。
あの、大切なものを見るような眼差し。優しく、愛おしむような瞳。
まるで…
「…!?いやいやいや…それはないよ絶対…」
「…ひーめーさーん?本当にどうしたんですかー?」
顔を覗き込んでくるヨザックをかわしつつ、は最後に浮かんだ考えを必死で否定する。
まるで、好きな人を見るようだった、なんて。思い上がりも良いとこだ。
しかしヨザックは、そんなの思考に気付いているのかいないのか、不意に彼女の肩を掴んだ。
「ヨザック!?」
「はいはい、いいからちょっとゴメンナサイねー。」
そのままの額にコツンと自分の額を当ててくるので、は今度こそ顔を真っ赤にして固まった。
「んー…熱はないなぁ…どうしたんですか、姫さん?…あれ、姫さん…?」
至近距離でを見つめて驚いた顔になったヨザックは、ややあって今の態勢が誤解を招くものだと気付いたのかガバッと離れた。
「うわ…!す、すいません姫さん!」
「う、うん…大丈夫…」
「「…………」」
何となく気まずい雰囲気で黙ってしまう2人を、すれ違う人々が興味津々で見ていく。
ヨザックがためらいがちに口を開いた。
「…とりあえず、部屋に行きましょうか?」
「…うん。」
終始無言で部屋に辿り着いた2人は、中に入っても妙にギクシャクとしていた。
お茶を煎れるを壁に寄りかかって見ていたヨザックは、僅かに赤い彼女の頬に思わずポツリと呟く。
「…期待しちまうじゃねぇか…」
少し離れていたは、セリフが聞こえなかったらしくヨザックを振り向いて首を傾げる。
「何か言った?」
「…いえ、何も。」
穏やかに笑って首を振るヨザックに、一瞬眩しそうな目を向ける。ヨザックはそれを意外な気持ちで見た。
「…姫さん…?」
「あ、ううん、何でもないの。…ただ…」
手際良く用意をしながら、は少し早口で言葉を続ける。
「ヨザックの笑顔は太陽みたいだなって思ったの!…変なこと言ってゴメンね。」
照れ笑いを浮かべてお茶を運ぼうとしたの足がもつれる。間一髪でとお茶とを支えたヨザックは、そのまま彼女から盆を受け取ってテーブルに置くと立ち上がりかけた所を優しく抱きしめた。
「ヨ、ヨザ…」
「…すいません。でも、俺は…」
姫が好きです。
囁かれた言葉にの背がピクリと震える。ヨザックは抱きしめる力を強めてもう一度繰り返した。
「…好きなんです。姫…」
「…姫、は止めて、ヨザック。って呼んで。」
「え…?」
顔を上げたが真っ赤になりながらも微笑んで言う。
「思い上がりだったらどうしようと思ってた……私も、ヨザックが好きだよ。だから、名前で呼んで?敬語もダメだからね。」
信じられないという顔をしていたヨザックは、やがてゆっくりと、目を細めて宝物のように名を呼んだ。
「好きだ…。」
「…うん…」
お互いの目と目を合わせて、2人は静かにキスをした…
「…と、まぁこんな感じで…あれ、有利大丈夫?」
「お、おー…」
意外にショックが大きかったのか潰れてしまった有利に気を取られていたは、傍らのコンラッドが小さく舌打ちしたのに全く気付かなかった。
たまたま通りかかった兵士が聞き取ったところによると、コンラッドは舌打ちの後にこれまた小さく「あの野郎…」と呟いていたらしい。
〈FIN〉
君は僕の、僕は君の。