例えばの話、もしも彼女がいてくれなかったら、今まで俺は俺でいられただろうかとか、結構本気で考える。
答えは決まっている。「NO」だ。あの、他人の中には味方がいないような錯覚に陥った時期なんて、彼女がいなかったら多分無理だった。
そう、彼女。愛しい少女。
名前は、。
「一護、学校行くぞー。」
のんびりとした声が窓の外から聞こえて、一護は手を振る少女に叫び返した。
「今行くから、ちょっと待ってろ。」
「りょーぅかぁい。」
妙に間延びした声で答えて、はふぁぁと欠伸をする。その猫のような仕草に笑って、一護は階段を駆け下りた。
「行ってらっしゃい一兄(お兄ちゃん)!」
妹たちに「行ってくる」と返してドアから走り出る。小学校と中学校では当たり前だったこの行動は、高校生になってからはしばらくご無沙汰していた、懐かしいとも言える動きだった。
と登校すること。
それはひどく懐かしく、そして嬉しい日常の復活だった。
「悪い、待たせたな。」
「いや?別に待ってないし、待ってても苦痛じゃないから気にしなくていい。」
門柱にもたれていたと並んで、学校へと歩を進める。
チラリと目をやると、のんびりした挙動の底に眠る、肉食獣のような隙のない何気ない仕草がハッキリと分かった。
浦原に戦い方を教わって、が実はとんでもなく強いことを知った。実戦の最終日の相手はだったから。彼女はソウル・ソサエティまで一緒に来て戦ってくれた。彼女もまた…死神だった。
「一護?」
教えられていなかった様々な事実に、最初は愕然として、次いで怒りを覚えた。どうして教えてくれなかったのか、と。
でも、今は単純に…
自分を見上げてくるに軽く首を振って、一護は素直に疑問に感じていたことを聞いた。
「なぁ、お前って結局何歳なんだ?」
虚を突かれたような顔になったが、苦笑を浮かべて答える。
「女の子に年齢の話題は禁物だぞ?まぁ構わないが…私の年齢は見た目通り、16歳。」
「そっかー。ルキアとかは結構年上だったからな。はどうかと思ってたんだ。」
あっけらかんと話す一護に、は今度こそため息を吐いて言った。
「その絶妙に天然ボケなところは直らないのかね…。」
「な、何だよ天然ボケって!」
愉快そうにが立てた笑い声に、一護は追及する気をなくしてつられて笑う。
この明るい一面があるからこそ、彼女の人格が保てていると言っていい。元来喧嘩好き(剣八タイプ?)な彼女は、平和な世界には不釣り合いな人種なのだ。
だから、こうして出会えたのは一種の奇跡に等しい。
「。」
「ん?」
「がいてくれて良かった、ありがとう。」
目を見開いたは、顔を常の人をからかうようなそれにして答える。
「どういたしまして。」
口元が微妙な感じに上がっているのは間違いなく彼女なりの照れ隠しで、一護は笑ってその頭をつつく。
「素直に恥ずかしがればいいのによー。」
「う、うるさい。」
「ははっ」
「笑うな、泣き虫のくせに。」
憎まれ口ですら、楽しくて仕方がない。
好きなのだとハッキリ自覚するのはこういう時だ。彼女の一挙一動に自分は敏感に反応してしまう。正直、重症だと思わないでもない。
それでも、好きだからしょうがないのだ。
今のままで、いいのだ。
「可愛いよなぁ、は。」
「気色悪いことを言うな。」
べ、と舌を出したが一護の後頭部を軽く殴って走り出す。慌ててそれを追いながら、一護はそっと笑った。
教えてくれなかったことが不満で、それに反発したこともあった。でも、今は単純にこう思える。
がいてくれてよかったと。力を貸してくれたことが嬉しかったと。
「ありがと、な…」
本当に、心から。
君がいて良かった。
〈FIN〉
君がいるから