「…何か用かな、小さな隊長さん。」
「あぁ。一つ、訊きに来た。」
初めて出会った桜の下、出会った時とは反対の立ち位置で、と日番谷冬獅郎は相対していた。
旅禍と呼ばれた彼女は、今ではソウル・ソサエティの客扱い。本人的にそれは非常に鬱陶しいものであったらしく、しょっちゅう抜け出してはここに来ていることを日番谷は知っていた。
冷たく醒めた視線で日番谷を見たは、そのまま顔を背けてついでに背も向けてしまう。
日番谷はそんな態度を気にすることもなく、淡々と問い質した。
「…お前は、何を知っていたんだ?」
「それに答える必要はあるのかな。全て起こって終わったこの時に、それを知る意味はあると思うか?」
はぐらかすような返答に、日番谷は険しい顔で繰り返す。
「それでも俺は知りたいんだ。何を知っていた?」
「…へぇ。不思議な人だねぇ。」
僅かに語調に笑みを含めて、はゆっくりと答える。
「…朽木ルキアの秘密と、崩玉の存在と、藍然の反乱を。」
「な…!」
絶句する日番谷に、はクックッと喉を鳴らして笑う。
日番谷は知っている。黒崎一護の前では、少女が決してそんな仕草はしないことを。それはそれは穏やかに笑うことを。
だが、今こうしているもまた、確かに彼女なのだ。
出会った時から変わらない、呑まれそうに強い霊力。ふとした瞬間に零れる鬼気。
ゴクリと唾を飲み込んで、日番谷はに一歩近づく。
「そこまで知っていても、止める気はなかったのか!?知っていたのなら…!」
「無理だろう?だって君達、ルキアちゃんのことあんなに厳重に隠してたじゃないか。」
ふざけた口調で言って、は皮肉な眼差しを日番谷に注いだ。
押し黙る彼に、しかしは肩をすくめてニヤリと笑う。
「ま、もし止められたとしても、私は止めなかっただろうけどね。」
だって、私は一護以外に協力する気は毛頭ないんだから。
そう、それが、彼女が厄介である最大の理由なのだ。
たとえ世界がかかっていたとしても、は間違いなく一護が動かない限り何もしないだろう。絶対的な霊力を持つにも関わらず。
気まぐれではなく、揺るぎない心は時として危険極まりない。
「…何故…」
「ん?」
「何故、そこまで黒崎に固執するんだ?」
す、との顔から表情が抜け落ちる。日番谷はそれに気づいていながらも、黙殺して続けた。
「侵入してからも、そうだ。強い敵は黒崎に残して、お前はまともに戦っていない。」
まるで、一護を戦わせることだけが目的であったかのように。
だが、それは同時に、一護を危険に晒していたことと同義だ。それはおかしい、と日番谷は感じている。
の全身から、強く激しい霊圧が迸る。一瞬で動けなくなった日番谷に冷酷な一瞥を投げて、は踵を返した。
「…答える気はない、日番谷冬獅郎。」
氷のような声で言って、は瞬歩で掻き消えた。
フッと肩の力が抜けて、日番谷は苦笑しながら大きく息を吐き出す。
斬られるかと思った。それ程に凄まじい気配だった。
「参ったな…」
彼女とじっくり話してみたくて、やって来たのだけれど。何だか嫌われた気がする。
もう一度大きく息を吐き出して、日番谷もまた踵を返す。
後には、冷たく重い霊圧の名残だけが残された。
〈FIN〉
凍てつく邂逅