「ではリオン、また参りますね。」
「またな、リオン。」
「うん、また。道中気をつけてね、エイリーク、エフラム。」
笑顔でルネス王国の2人を見送ったリオンは、静かな足音に微笑んで振り向いた。
「、もう稽古は終わったの?」
「はい、終わりました。お見送りですか、皇子?」
と呼ばれた少女の返答に、リオンは哀しそうな顔になった。
「・・・名前で呼んでくれないんだ?」
「あなたは皇子で、私は家臣です。・・・今までの方が恐れ多かったのだと思います。」
冷静に言った少女の髪は、光を浴びて輝く銀色。物腰には貴族のそれと思われる気品がある。
リオンよりも2・3歳年下に見える美しい容姿は、どこかリオンと似通っていた。
それもそのはずで、彼女はリオンの異母妹なのだ。リオンの方は正妻の息子で、の方は踊り子の娘。不義の子であったを連れて彼女の母はグラドを去ろうとしたが、その前に病で倒れ、結局は今まで王族の”姫”として育てられた。
武芸の才がないリオンと違って、デュッセル・グレン・セライナの三騎に武術と魔術を仕込まれたは、表に出ることこそなかったものの、その才と聡明さから一目置かれる存在となっていた。皇太子であるリオンよりも、彼女をおうにすべきだという意見が出たほどだ。
だが、だからこそ、彼女は”姫”の立場を捨てて臣籍に下った。「私は不義の子です。今まで王族として扱われていたのが分不相応だったのでしょう。」と言って。
自分の悩みを聞き、支えてくれる妹を失ったリオンは、それに未だ納得できずにいた。
「・・・でも、僕が許してるんだから別に・・・」
「けじめです。今の私はただの一家臣。名前を呼べるほど高位でもありませんから。」
譲らないに、仕方なくリオンは肩を落とす。何だかひどく寂しかった。心の一部を失ったような気分だ。
うなだれるリオンに流石に気の毒になったのか、は微笑んで優しく諭す。
「今は遠くても、必ずあなたを支える重臣になってみせます。私の王は、あなたとあなたの父上ですから。」
「・・・うん、分かった。良い王になって、を待つよ。」
やっと顔を上げたリオンにはホッとした顔になる。そしてそのまま、軽く一礼してその場を離れようとした。
冷静になったリオンは、を見送りかけてハッとした表情で引き留めた。
「待って、!」
「・・・どうかしましたか?」
振り向いたの腕を掴んで、リオンは強い調子で問う。
「その格好・・・旅に出るつもりなの?」
は驚いたように目を見開くとすぐに苦笑した。悪戯を未然に発見された子供のような表情だ。
「はい。少し、外を見て回ろうかと思います。」
「・・・そんな・・・」
「ヴィガルド皇帝の許可も得ました。今来たのも、最後にお顔を見たいと思ったからなのです。」
静かにリオンの手を解いて、は涼やかな笑みを浮かべる。その表情に止めても無駄だと悟ったリオンは、ただ深くため息をついた。
どうやら、本当に会えなくなってしまうようだ。
「・・・帰ってくるよね?」
「約束します。」
「・・・そう。・・・気をつけて。」
心から心配そうに言ったリオンは、一度を抱きしめると、今度は自分から背を向けた。
情けなくなる位、心が苦しかった。
そんなリオンの背を黙って見つめていたは、やがて馬小屋へと足を向ける。
この対面が、2人の交わす最後の対話になるとは、欠片も想像しないまま。
時が過ぎ、彼女が城から去って2年。突如としてグラド帝国は侵攻を開始する。
世界中が混乱に陥る中、は1人、フレリア王国でその報を聞くのだった。